任意後見は、将来のために元気な時に備えておく制度です。
任意後見が始まるのは「判断能力が不十分になった後」です。
しかし、判断能力が低下していない場合であっても、
お体の不調や、生活上の不安から、支援を必要とする方もいらっしゃいます。
そこで、本記事では、
「老後の備え」について、任意後見以外の方法
を中心にお伝えします。
任意後見の概要についてはこちらの記事も参考になさってください。→任意後見の概要
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老後の備え 形態
備えには、いろいろな選択肢があります。
主な形としては以下のとおりです。
・任意後見だけ
・任意後見以外の備えだけ
・任意後見と任意後見以外の備え両方を準備しておく
以下の本記事では、
任意後見の概要と、任意後見以外の備えについてお伝えします。
任意後見の概要 ~役立つ場面と費用~
老後の備えとして、「任意後見契約」も一つの方法です。
任意後見は、元気なうちに、将来「任意後見人」として、支援してくれる人と契約をします。
契約は公正証書を作成します。
任意後見契約をすると登記されます。
契約後、判断能力が不十分になったときに「任意後見監督人選任の申立」を任意後見受任者などが行います。
任意後見監督人が選任されたら任意後見事務が開始されます。
任意後見制度の概要については、下記の記事も参考になさってください。
任意後見が役立つ場面は、
「判断能力が不十分になって、契約や財産管理ができなくなる」
という場面です。
具体的には「認知症」「精神疾患」「事故や病気による脳疾患」による判断能力の低下が考えられます。
特に、「認知症」が原因で後見を利用する人は多い状況です。
任意後見については、
・契約時
・任意後見監督人選任申立時
・任意後見開始後
などに費用負担が生じます。詳しくは以下の記事をご覧ください。
任意後見以外の老後の備えとは
任意後見以外の老後の備えについて、主に、以下の4つがあります。
・財産管理委任契約
・見守り契約
・死後事務委任契約
・遺言書作成
これらの契約または書類作成については、判断能力がしっかりしている間に行います。
また、契約に関しては、契約締結時に手数料が発生しますし、相手方に報酬を支払うことになります。
ご親族など、何かのご縁があり無報酬という選択肢もあります。
上記の備えについて、以下で具体的にお伝えします。
財産管理委任契約
財産管理委任契約は、
日常的な金銭の管理、預貯金の管理や不動産の管理を、信頼できる人にお願いする契約
です。
認知症でない方が、財産管理について支援を求めるには、この契約が良いと思います。
よくあるケースとしては、任意後見契約を結ぶ際、同時に「財産管理委任契約」を結びます。
認知症になる前は、この契約を履行してもらい、
認知症になったら「任意後見」に移行する形が多いです。
将来、認知症になってしまい、判断能力が不十分になった後は、後見の対象となります。
財産管理委任契約が行われていたとしても、後見が開始されたら財産管理委任契約が終了するとお考えください。
判断能力や健康に自信がある人にとっては「不要」と思うような契約かもしれません。
しかし、ご高齢になって、不安が大きくなると、この契約が役立つ場面があります。
以下に例を挙げます。
銀行に行くのが難しい~身体が不自由になる、一人では不安になる~
例えば、判断能力はあるけれども、お体が不自由になったため、金融機関に行くことが難しくなった・・というケースもあります。
その場合、誰かに、金融機関へと代わりに出向いてもらって、預貯金の入出金をしてもらったり、振込をしてもらったりするような支援があると助かります。
また、判断能力は問題ないけれども、一人で財産管理をするのが不安・・という方もいらっしゃいます。
判断能力は契約を結べないという低下の具合はない。でも、きちんと財産を守っていたい・・と思う方は財産管理を受任者(=代理人)と一緒に行うのも一つの方法です。
銀行の印鑑や通帳の置き場所を忘れることが将来的に不安・・と思う方は、印鑑等の管理を受任者(=代理人)にお願いする形もあります。
詐欺の電話や訪問販売が来ても・・・
また、高齢の方を狙った詐欺事件が多く発生しています。
電話でお金を用意するように言われることが、詐欺被害に遭うきっかけになっているようです。
また、最近では、突然自宅に来て、「すぐに工事をしなければ危ない」と言う業者も多く見受けられます。
不審な電話がかかってきたり、訪問販売や工事の業者が来たりしたときにも「財産管理委任契約」があれば財産を守る効果があると考えます。
相手に何かを言われても、「代理人(=財産管理委任契約の受任者)に確認する」というステップがあれば、いったん落ち着いて事案を整理できると思われるからです。
工事をすぐに・・と言われても、「費用がかかるから周りと相談する」と返答することで、その場を逃れることが期待できます。
詐欺被害を防ぐことも財産管理の一つのメリットと言えるでしょう。
関連の調査結果
少し前の資料ですが、以下のようなアンケート結果があります。
老後について「何が不安か」との問いについて、回答は、
通帳や印鑑を紛失してしまわないかという不安のほかに、
訪問販売などの営業を断れなくなるのではないか、
詐欺に巻き込まれるのではないか、
との不安を多くの人が感じていました。
その対策として、金銭管理を誰かに任せたいと考えるという実態が示されていました。
調査結果は少し前のものではありますが、調査後に決定的な改善が図られるような事象はありません。高齢の方が増え、高齢者を狙った詐欺事件も後を絶たない現状からすると、この調査結果のような不安が今も続いていると考えられます。
財産管理委任契約だけで良い?
任意後見ではなく、財産管理委任契約だけを結んでも構いません。
財産管理委任契約だけの公正証書作成という方法もあります。
ただ、老後の備えとして、「財産管理だけで良いのか?」との疑問があるとしたら、
正直に申しますと、それだけでは不安があると思います。
認知症になった場合の対応が困難だからです。
認知症になった場合は、後見開始の申し立てを誰が行うのか?誰が後見人になってくれるのか?というところから考えて手続きを始めなければなりません。
認知症になったら、自分で財産を動かせなくなるだけでなく、自分で福祉の契約を結ぶこともできなくなります。
認知症への備えをした方が良い、と考えるとすると、この財産管理委任契約だけでは不足なのかもしれません。
認知症への備えとしては、任意後見契約となります。
ただ、ご事情は人それぞれです。
認知症にならない方もいらっしゃいます。
任意後見契約をしないと、財産管理委任契約ができないというわけではありません。
また、認知症になったら任意後見または法定後見を始めるという義務はありません。
いろいろな事情や考え方によって備えは変わるので、ご自分の正解を見つけていただければと思います。
見守り契約
見守り契約は、定期的に、ご本人の居所を契約の相手方が訪ねて、様子を見る契約です。
元々は、任意後見契約に関連しています。
任意後見契約では、判断能力がある間に契約を行い、判断能力が不十分になったときに後見事務を開始する手続きを行う(=任意後見監督人選任の申立)ことになっています。
任意後見受任者(=任意後見契約の相手方)は、
本人の判断能力が不十分になったタイミングを適切に知っておく必要があります。
任意後見受任者が、定期的に本人と面談しておけば、判断能力の変化に気づくことが可能です。
そこで、任意後見契約と同時に、見守り契約を結び、定期的な面接・面談を行う・・というのが、任意後見契約の流れの一つです。
ですが、
見守りそのものを目的として、
見守り契約だけを結ぶ
という方法もあります。
日頃の様子を定期的に見てもらって、何かあれば遠くの親族に連絡してもらうなど、本人の安心や安全につながるメリットがあると考えられます。
死後事務委任契約
後見事務は、基本的に、本人が生きている間の支援です。
任意後見だけでなく、法定後見についても同様です。
亡くなられた後は、後見人ではなく、相続人が事務を行うこととなります。
ご本人が亡くなられると、相続が開始され、ご本人の財産は、相続人に引き継がれるからです。
ただ、身寄りがない、頼れる親族がいない方は、死後の事務も誰かに任せたいのではないでしょうか。
死後事務委任契約を信頼できる人と結んでおくと安心だと思われます。
死後事務委任契約は、
ご本人が亡くなられた後、死去に関連する諸手続きを受任者が行う
という契約です。
死後事務委任契約も公正証書を作成しておくと良いでしょう。
元気なうちに契約を行い、手数料や報酬を前もって支払っておくという流れになります。
死亡届について
結論から申しますと、
死後事務委任の受任者は、死亡届を出せる人ではありません。
戸籍法の定めにより、
亡くなられると、死亡届を役所に提出します。
死亡届の義務者として、同居の親族、その他の同居者などがいます。(戸籍法87条1項)
その他に、死亡届を出すことが出来る人として、同居の親族以外の親族、後見人、保佐人、補助人、任意後見人及び任意後見受任者も挙げられています。(戸籍法87条2項)
~ポイント:任意後見と死後事務委任の比較~
任意後見受任者は、死亡届を出すことができます。
死後事務委任契約の受任者は、死亡届を出せる人ではありません。
任意後見契約をしておくと、死亡届は任意後見受任者・任意後見人が提出してくれる可能性がある・・と言えます。
頼れる親族がいない方には、任意後見契約が役立つと思います。
一方、死後事務委任契約だけを結び、任意後見契約を結んでいない場合では、死後事務委任の受任者が死亡届を出す権限はありません。
そのため、死亡届を出す権限のない死後事務委任の受任者は、どなたかが死亡届を出した後、本人に関する死後の手続きを行います。
死後事務の範囲
死後事務は、あくまでも亡くなった後の事務的な作業を行う内容となります。
死後事務委任の受任者には、
住まいに関する解約手続き(一人暮らしであれば、その自宅の解約手続き、水道光熱関係の解約手続き。施設に入っていたのであれば、施設の退去の手続き。)、携帯電話等の解約、葬儀・納骨など
を、死後事務として引き受けてもらうこととなります。
遺産をどうするか?について、手続きをするのは、死後事務委任の受任者(=引き受けた人)の役割ではありません。
遺産をどのようにするか?は、相続人や遺言があれば遺言執行者が手続きを行います。
遺言書の作成
前項のとおり、死後事務委任は、ご本人が亡くなられた後の事務に関する内容を受任者にお願いします。
遺産をどのようにするか?は、別の問題になります。
遺産を誰に引き継いでもらうかについて希望があれば、遺言書を作成します。
遺言書に、財産の引き継ぎ先(遺産分割の方法)を意思表示しておきます。
そして、その遺言の内容を実行してくれる人を決めておきます。
遺言の内容を実行して手続きしてくれる人を「遺言執行者」と言います。
遺言執行者を誰にするか?についても、遺言書に書いておきます。
遺言書も、公正証書で作成すると良いでしょう。
公正証書遺言をしておくと、次のようなメリットがあります。
・公証人が作成するため、法律的に有効な言葉で作成される
・遺言書を紛失する心配がない
・遺言の執行が比較的スムーズに行われる
手数料がかかりますし、証人2名も必要ですが、遺言を実行する上では、優れた方法です。
裏を返せば、公正証書遺言ではない「自筆証書遺言」(=自分で書いて、自分で保管する遺言)では、上記のメリットはないとも言えます。
~自筆証書遺言について補足~
保管は、法務局に遺言書を預ける方法もあります。法務局に預けることができれば、保管に関しては心配がないと言えます。
希望や状況に合わせて備えを
任意後見に関連した老後の備えについてお伝えしました。
すべての備えを行うなら、それは安心だと思われます。
任意後見契約・財産管理委任契約・見守り契約・死後事務委任契約・遺言書の作成・・とすべてを行っておけば、手続き関係は停滞しなくて済む可能性が高まります。
すべてを勧める専門家が多いかもしれません。
ただ、それぞれの事情がありますので、
ご希望や状況に合わせた備えをされることをおすすめしたいです。
遺言の作成について
遺言書というと、「高額の財産がある人が対象では?」と思われがちですが、そんなことはありません。
皆さん、預金はあるかと思います。
または、預金が少なくても不動産がある場合、複数の相続人でどうやって分けたら良いでしょう?
遺言書がないと、相続人間で話し合いをしなければなりません。
話し合いがうまく行くケースばかりではありません。
遺言書によって、相続人が話し合う負担を減らし、ご自身の考えを反映させることが大切です。
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